最後の教会コンサート(ヴェゾン)を終えた翌日からは、
午後に行われるワークショップのみが練習となり、
その時間以外は比較的自由に過ごすことが出来た。
もちろん
観光や買い物に出掛けても良かったのだが、
エスカパドホテルの持つ、
静かで柔らかな空間の中に
少しでも長く留まっていたいと思った。
朝食を食べた後、
バスルームで手洗いした洗濯物を干すためにホテルの庭を歩くと、
どこからか馬の鳴き声が聞こえてくる。
(宿舎から少し離れた森に
黒と白の2頭の馬が放し飼いされていた)
ホテル内には沢山のレッスンスタジオがあり、
難曲に挑戦するピアノやフルートの二重奏、
暖かいチェロの低音があちこちから聞こえてきた。
貸して頂いたピアノのレッスン室で、
窓を開けてリストの『Ave Maria』を弾いて遊んでいると、
共感出来るフレーズが心に響き、
自然と涙が零れ落ちた。
夜、
中庭にある白いプラスチックのチェアーに座って目を閉じると、
木の葉のサラサラとした音が、
風の起こりと共に聞こえては消え、聞こえては消えた。
4つの教会コンサートを行い、
マスタークラスのワークショップを受けて、
6人の指揮者によるファイナルコンサートを終えた今、
一番感じているのは「聴くこと」ついて。
「本当のp(ピアノ)」とはどういうことか、
「他パートを聴く」とはどういうことか。
それを教会の響きや、
マスタークラスのワークショップで学んだように思う。
例えば、森の中で自分自身が【静寂】である時、
自然の中に自分は包み込まれていて、
[私]がそこに居ないような感覚になる。
そういう感覚を合唱団で共有している時、
心地の良い、落ち着いた気持ちで
アンサンブルに一体化出来たような気分になった。
(そこには「誰が上手い」
「誰が賢い」のような
[個人]は必要とされていない)。
逆にザワザワした環境の中で歌わなければならない時、
吐き気しそうなほど不快な気分にさえもなった
(向井先生には潔癖と言われてしまった)。
日本に帰って、
Ensemble EVANで練習を進められることに本当に感謝したい。
自分が感じた音楽環境をEVANのメンバーに「説明する」のではなく、
実際に練習を通じて伝えたいと思っている。
スピーチするのではなく、目と腕で音楽を伝えること。