鳥取にて

11/6
鳥取にて。文化庁主催の巡回公演事業で鳥取県に滞在しています。昨日、最初の本番を終えました。美しい山と川に囲まれた小さな小学校で、児童数は30人程でした。学校全体が静寂に包まれていて、木漏れ日がキラキラと輝き、草を刈った匂いが仄かに漂っていました。
普段、200人から多い時は1000人を相手に芝居をしているので、30人に対してどうアプローチするかを実践するのは、ワクワクする体験でした。まず、子ども達一人一人の表情が舞台側からでもよく見えます。ちょっと怖がっている一年生。ポカンとした顔をしている男の子。ニコニコと喜んでいる近所から来たお婆ちゃん。客席の表情や呼吸となるべくマッチするような演技を心掛けました。子どもの反応も普段とは違います。200人以上の学校だと、笑いが起きた時は、その笑いは直ぐに客席全体に拡がり、大きな塊となって会場に響きます。役者はその笑いの波に合わせて芝居を続けますが、30人程ですと、笑いは波ではなく個人の単発で起きるので、それをどうやったら30人全体の笑いにまとめることが出来るか、を考えていました(お笑い芸人ではないのですが)。色々書きましたが、人数が多かろうが少なかろうが、結局は目の前のお客さんに真剣に向かい合うことが一番大切なことです。それはエバンの毎回の練習でも同じです。では、2校目に行ってきます。

11/7
日本海と大山(だいせん)を垣間見ながら、米子に来ました。皆生温泉に浸かって明日に備えています。一校目の学校には『さくら』の楽譜が体育館に置かれていました(文化祭の練習でしょう)。2校目の学校では『ふるさと』の旋律がお昼のサイレンとして流れていました。Ensemble EVANは地域の方々に生の演奏を届けることを活動の柱の一つにしています。「ポピュラーとは何か」。合唱人が愛唱している合唱曲は確かに魅力的で演奏したくなる曲が多くあります。しかし、広く一般の方に合唱音楽を届けたいと考えると、『さくら』や『ふるさと』など、地域や時代を越えた曲を取り扱うのが、まずはEVANの進む道なのだろうと、サイレンを聞きながら思いました。

11/9
「スーパーはくと」に乗りながら更新しています。昨日は境港で、今日は智頭町で公演を終えました。智頭はまるで東山魁夷のような世界でした。一旦、帰阪して、また日曜日に再び鳥取へ戻ります。
鳥取のホテルでNHKを見ていると、ある地域の神事の様子が報道されていました。何でも、その年に収穫した野菜や果物にあえて「まずい」とか「すっぱい」などケチをつける儀式だそうです。今の現状に満足せずに、来年はより良いものを作ろう、という意味があるそうです。また、昨日泊まった旅館の女将さんは、話しているだけで嬉しくなるような方でした。お借りしたナイフで学校から貰った柿を剥いていると、「上手に剥くなあ、天才的やわ」。自分が演じている役の特徴を言うと、「そんな顔(ノラ猫の大将)してるわ」と一言。褒められて嫌になるはずがないですよね。何の芸事でも練習は「褒める」と「ダメだし」のバランスですが、褒める時は心から、ダメだしする時は未来を信じて、そんなことを考えていました。
さて、今日も子どもたちは大変喜んでくれていました。学校の先生も「プロの役者」「本物の芸術」と紹介してくださっています。子どもたちの期待を裏切らないように、劇団は全力で作品を作っていますが、それが商品として通用するために、いくつかの要素が存在していることを感じています。まずは「大きな声を出すこと」。おそらく小劇場の役者に比べて、我々はかなり大きな声でセリフを言っています。それは、後ろの子どもたちにもセリフが伝わるように、という理由があります。さらに、先生が観劇後の指導で「劇団の方々のように大きな声で教科書を読みましょう」と言われていたので、なるほどと思いました。児童青少年演劇は子どもたちの模範とならねばいけません。他にも「身体のキレ」「作品のテーマ」など、色々な要素が積み重なって、作品は学校向けの商品に仕上がっています。
Ensemble EVANはもちろんアマチュアの団体ですが、アウトリーチを活動の中心にしています。ロビーで演奏させてもらうにはある程度の品質が必要です。どうしたらお客さんに喜んでもらえるか、は皆さんの仕事や生活の中に必ず内在していると思うので、知恵を出し合って、より良いレパートリー作りをしていけたらと思っています。

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