「芸術家にとって個々の作品と同じかそれ以上に、方法論の確立が重要であると、僕は信じている。というのも、作家にとっての方法論は、一種の思想であり、哲学であり、態度である。」(『演劇vs映画ードキュメンタリーは「虚構」を映せるか』岩波書店)
台本・ナレーション・BGM等のない、自ら「観察映画」と呼ぶ作品を作る想田和弘監督は、自身の作品を作る方法論を以下のように表現しています。「観察映画が目指すのは、先入観を排した虚心坦懐な観察という行為を通じて、世界をありのままに描くこと」「何かを本当に『観よう』とすれば、本来、時間が掛かるものである。そして、たとえ多少の時間は掛かっても、『解説に頼らず自分の目と耳でよく観てよく聴く』」(同著)。
僭越ながら、この「観よう」を「聴こう」に変えたら、私がEVANでそのまま実践している方法であり、態度であると、読んでいて思いました。私は練習中に出来るだけ「解説すること」「説明すること」を避けています。それよりも、歌を歌ってもらい、そこに居る全員でその歌を「聴くこと」に多くの時間を費やしたいと思っています。
EVANでは自分を「さらけ出すこと」、そしてそのメンバーを「見守ること」を大切に考えています。通常の合唱の練習では一人一人が全体練習で歌うことはほとんど無いと思いますが、EVANでは初心者だろうが何だろうが関係なく、毎回、メンバーの声を聴く時間を設けています。その人の「声」を聴かせてもらうだけで、何となくその人の性格や雰囲気が伝わってくるからです。飲み会や雑談でコミュニケーションするのも良いでしょうが、「歌」を聴くという行為だけでも、充分にコミュニケーション出来ると思うのです。
実際、メンバーの声を聴き続けていると、前回よりも少し変わっていることに気がつきます。それをどれだけ繊細にキャッチできるかが、前に立つ人間の大切な仕事の一つなのでしょう。とてもやりがいを感じています。ありがとう。