【演劇】鹿児島での旅を終えて

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『火花が散る瞬間はいつか』。

これは元スターバックスコーヒージャパンCEOの岩田松雄さんの言葉で、「何をするにしても、本質的に付加価値を生み出している一番大切な瞬間を見逃すな」というメッセージです。例えば、スターバックスでの『火花が散る瞬間』はドリンクをお客さんに渡す瞬間にある、と岩田さんは言います。

私が働く舞台芸術(演劇)の世界で『火花が散る瞬間』はどこにあるでしょうか。

言うまでもなく、観客(子ども達)の前で作品を上演している時でしょう。その中での一点を指すとすれば、私は<幕が上がる>瞬間にあると思います。開演のブザーが鳴り響いた後、一瞬の静寂の後、観客の期待を一心に背負って作品は動き出します。出番を待つ役者達は、暗い袖の中で、呼吸をする者もいれば、ストレッチをする者もいれば、いつもどおりの者もいます。そして、眩しい照明の元にそれぞれ飛び出して行きます。

役者に限らず「初登場」は最も重要な瞬間でしょう。

特に、演劇の場合、初登場でセリフを間違ったり、観客の期待に応えられなかった人間は、その後だんだんと客席の興味が離れて行くような感覚に陥ります。逆に、しっかりと表現できた役者は、お客さんの後押しを受けて、さらに演じやすい雰囲気になります。だから「最初が命」なのです。

一方で、役者は客席から「見られている」と同時に、客席を「見ています」。

お客さんの座っている分布具合(これは、声を何処にどの程度届けようか、という点で非常に重要です)や、また、よく笑う人間は何処か、反対に、舞台から集中力が逸れている人間は何処か。そういった客席の様子を感じながら、時にはセリフのスピードを変えたり、時にはセリフとセリフの間を変えたり、時には発声や身体行動の強弱を変えたりします。だから、同じ作品を演じ続けていても、お客さんが変われば、作品は変わり続けるのです。
今、巡回されてる藤山直美×高畑淳子主演の『ええから加減』でも「(漫才にとっての)絶妙な間は、客と作る」という言葉が印象的でした。

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さて、前置きがかなり長くなりましたが、去年の鳥取に続き、今年は「平成25年度 鹿児島県 市町村による青少年劇場」で3日間・合計4ステージを上演して来ました(ちなみに10月は合計で24ステージを上演)。今、大阪南港に向かうフェリー「さんふらわあ」の船内で、波に揺られながら、このつぶやきを書いています。雑魚寝部屋でインターネットも繋がらず、時間だけはたっぷりある状態なので、今回の旅で感じたことを、文章にしておこうと思い、iPadにポチポチと文字を打っています。

上演した『のらねこハイジ』は私が生まれる前から続いているロングラン作品で、作品の持つ力や魅力的なドラマはもちろんのこと、年月を経ても改善され続けている演出によって、子どもはもちろん、大人が見ても心が動くだろう作品です。私はこの作品でノラ猫の「ドラ吉」を去年から配役されています。ドラ吉として舞台に立ちながら、演劇のルールや、表現方法について仕事をしながら学んでいます。

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黄金に輝く稲穂の風景や、噴火し続ける桜島を横目に見ながら、さつまの公民館や、伊佐、日置の小学校を回りました。おそらく、二度と合うことはないだろう子ども達を前にして、持てる限りの力で動き、セリフを言い、踊りました。芸術はスポーツのように計測したりできませんし、英語のように実用的ではありませんが、一つの場で、他の友達と一緒に物語を見る(音楽を聴く)、という行為は、きっと子ども達にとって、深い経験をもたらすだろうと信じて、如月舎は学校公演を続けています。

その中で自分は一体、どこに向かうのだろうか。

それも常に自問しています。大阪に残るのか、京都に戻るのか、三重に帰るのか、もしくは妻の実家の岡山に行くのか。キャリアはどうして行くのか。。

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時間が空いたので公演が終わってから、かごしま近代文学館に立ち寄りました。そこで向田邦子の常設展示がされていたのですが、向田さんがメッセージをくれたような気がして、思わずその文章の前で立ち止まってしまいました。

「私は、この年で、まだ、合う手袋がなく、キョロキョロして、
上を見たりまわりを見たりしながら、
運命の神さまになるべくゴマをすらず、少しばかりケンカ腰で、
もう少し、欲しいものをさがして歩く、人生のバタ屋のような生き方を、
少し誇りにも思っているのです。」向田邦子『夜中の薔薇』

もし再び鹿児島を訪れた時は、さつまの稲のように少しは頭を垂れることが出来て
いるでしょうか。まだまだケンカ腰で手袋を探す日々は続きそうです。

現地でよくして下さったご担当の先生方、お宿の方、そして、厳しくご指導して下さる先輩方、どうもありがとうございました。

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