生野区役所ロビーコンサートを終えて

小学校の校門を通り抜けるとき、ふと、甘く強い香りに気がつき、見渡すと一面に金木犀が咲き誇っていました。訪れたのは和歌山県は紀の川市。後で調べると、金木犀は市の木だそう。仕事の話を書いています。私が働く職場では、10月、11月が一年で一番忙しく、毎日どこかの学校で公演を行っています。学校公演は日中に行うことが殆どなので、早朝から働き始めます(現在4:30頃ですが、ばっちり目が覚めました)。今週は5日間で7ステージを終えました。来週も同じような日程で、再来週からは鳥取県へ2週間行ってきます。

様々な地域の学校で上演を続けていると、同じ作品を演じているのに、客席の反応は、もう、本当に違います。一つ一つの演技にワーッと笑う学校。狂言回しの台詞にツッコミを入れてくる学校。反対に「体育館に人が居るのか?」と思うほど、静かに鑑賞する学校。我々役者達は客席の呼吸を感じながら、その日の声の張りや、間の取り方を微調整して、客席とコミュニケーションしています。子供たちと物語を共有するのが私の仕事ですが、その際、「相手や空間とコミュニケーションすること」はこの仕事において最も大切な能力の一つなのだ、と再確認するのです。

さて、Ensemble EVANは10月20日に生野区役所にてロビーコンサートを行いました。EVANにとっては初めての単独演奏で、代表の加藤さんが、生野のスタッフと打ち合わせを重ねて、当日を迎えることが出来ました。会場に着くと、既にスタッフの方々がイスを並べて下さっていたり、音響機械を設置して下さっています。期待に応えられるように、良い演奏が出来れば、と思いました。幸い、EVANは同じレパートリーを各地域(亀岡、宇治)で演奏してきましたので、あとは当日集まったメンバーと、その日、どれだけまとまることが出来るかが勝負だろうな、と考えていました。そして、音楽面においてまとまるかどうかは、やはり、指揮者の力次第だと思っています。

「空間とコミュニケーションする」。まず、メンバーが集まる前に加藤さんと二人で控え室兼リハーサル室の机とイスを片付けました。私はここからが既に勝負だと思っています(どうでもいいこだわり)。イスは人数分だけ残して、後は端に『綺麗に』片付けておく。机はキーボード台用に一脚だけ残しておき、あとはやはり折り畳んでおく。人数分残したイスは、シンメトリーになるように配置しておく。その際、部屋の空間を音響的に上手く捉えることが出来るように、イスはやや壁よりに設置して、真ん中を広く空けておくことが重要(と勝手に思っている)。それが出来たら、仕事の半分は終わったようなものです。

「メンバーとコミュニケーションする」。次に、メンバーが到着したら、まず、メンバーがその空間に馴染むまでの時間を取る必要があります。中にはトイレに行きたい人もいるだろうし、身の回りの物を整理したい人もいるでしょう。だからすぐに「まとめ」には入らずに、やや「空き」を作っておきます。それから、緩やかにストレッチに入ります。だんだんメンバーの呼吸や、聴いている音、見ている物(この場合指揮者の声と動きですが)が揃ってきたな、という段階で、ブレスをします。S子音よりZ子音やリップロールorタン(舌)ロールのほうが、身体が起きやすい気がします。この時は沢山身体を使ってほしいので、あまり「集中せよ圧力」はかけません。ある程度ブレスをしたら、無声音から有声音にします。生野区ではG(ドレミファソの「ソ」)始めました。2小節ほど、有声&リップロールブレスをした後で、Gでハミングをします。ここからが勝負で、こちら側は「サン、ハイ!」とか指でパッチンしてリズムを取るとか、「1、2、3、4、・・・」みたいな【音を発声させる行為】は駄目だと27歳現在の私は思っています(これはフランスのマスターコースでピーター・エルダイ教授の身振りを見て思いました)。なるべく身体だけでリズムを作り、やってもらいたいことを表現します。それに成功すると、メンバーの視点が一点に定まり、耳は同じ音を聴くようになります。こういう風にして、リハーサルを進めて行きました(もちろん、未熟で自惚れの強い私は、定期的にトレーニングの場に行き、自らをさらけだすこと、学び続けることによって、最適なアプローチを模索し続けていかなくてはいけません)。

控え室でのリハーサルを終えて、会場でリハーサルをする時間になりました。この時も、いきなり最初から歌い始める、という選択はしていません。会場に「馴染む」時間が必要だと感じるからです(これは私のアイデアではなく、ESTから学んだことです)。まず、全曲の立ち位置を決めます。それから、本番で歌う『一番はじめは』のユニゾン部分を全員で歌います。それによって会場の響きと出会い、捉えようと努力します。その後、MCを含めて出来るだけ本番通りに頭から最初まで進行します(生野区では、その方法にメンバーが慣れてきたように感じたので、途中で止めて、やり直す、という作業も多く採用しました)。リハーサルが一定時間をすぎた時に、加藤さんが「休憩を取ろう」と言ったのは正解でした。その時、私には時間をコントロールする感覚がやや麻痺していたので、加藤さんからのフォローはありがたく思ったのでした。チームワーク。

「表現者は言い訳をしない」。本番の感想は客席に委ねますが、手応えとしては今までで一番感じました。お客さんが静かに聴いて下さっていたので、落ち着いた雰囲気の中、でも熱のこもった力強い演奏が出来たと思います。これは本当にメンバーのおかげです。自分にはもったいないほど、能力のあるメンバーに囲まれて合唱が出来ることを幸せに思っています。ありがとう。本番後は橋爪家にお招きして、まさにホームメイドの打ち上げをしました。見学者のカブト君も入団してくれて、本当にありがたいことです。一緒に良い活動をしていこうね。

感想をご紹介。「この一年でEVANはすごく成長したんだね。演出も演奏も楽しく聴かせてもらいました。周りのひとも反応よくて、夢中で聴いてたり、口ずさんでる人もいたりして、こういうのいいなあって思いました。一緒に口ずさめるようなコンサートとか選曲ってうれしいね。EVANいい感じやーん( ´∀`)それは本当によく伝わった!!歌ってすごいね。」

生野区役所のスタッフの方々、聴きに来て下さったお客さん、ありがとうございました。

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